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環境エンリッチメント雑感

(株)アニメック 富田久志
専門誌LABIO21への投稿記事より

LABIO21

はじめに

2001年9月11日アメリカ合衆国で大惨事が発生しました。航空機をつかった4つの同時テロ事件です。そして日本では2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生しました。私は9・11事件の惨劇の余韻が醒めやらぬ10月下旬にアメリカに行きました。アメリカは悲しみと悔しさ、様々な思いでしょうか悄然としているように感じました。ペンタゴンには飛行機の脚が無残に転がっておりました。国防総省の本部庁舎にはシートが掛けられ様子は遠くからしか見ることができませんでした。私の渡米目的はアメリカ実験動物学会(AALAS)に参加するためでした。その年のAALAS参加者は登録者数の1/3くらいしかいなかったと聞いております。学会開催中、街なかに出かけると町の人がたいへん親切なことに驚きました。前年の学会とくらべて雰囲気が全く違うことにも驚かされました。大惨事が起こって国民の心が動いたのでしょうか?人々は大事件、大惨事がおこったら何か大切なことを思いでだしたのでしょうか?いままで大事なことをわすれていたのでしょうか?9・11は人災でした。3・11は天災でした。しかし、天災も人災もおなじだと思います。いま日本では9・11後のアメリカと同じくらい人が優しくなっていると思います。また日本人は沈着冷静で忍耐強く思いやりがあるひと柄であり、これは他国にない国民性だと思います。

この日本人の優しさ、思いやりは人に対してだけでなく動物に対しても同じです。原発危険区域内の乳牛が処分されるために連れ去られるのに対してその飼育酪農家は涙していました。

この震災でお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りし、ご遺族の皆様へ深くお悔やみを申し上げるとともに、被害に巻き込まれた方々に心からお見舞い申し上げます。また、一日も早く復興することを願っております。
動物とヒトのゆたかな生活空間

ヒトの環境エンリッチメントとは何だろう?いきなり変なことを考えつきました。ヒトのエンリッチメントのなかに動物が存在します。とくにイヌやネコなどはペットとして典型的な動物種です。動物は人を癒してくれます。いまでは 家族として飼われているお宅も多く、朝夕散歩する姿を多く見かけます。貧しいときにはなかなかできなかったが、豊かになれば家を建て、車を買い、ペットを飼う、この構図ではないでしょうか?半世紀前には見かけられなかった光景です。
イヌを食べる国を食べない国が批判する記事がありました。わが国でも可哀想と同感するひとが大半でしたが、じつは日本人もイヌを食べておりました。決して大昔の話ではありません。
貧しいときにはなかなかできませんでしたが、豊かな生活になれば人は動物にも豊かな(エンリッチな)生活空間をあたえようとするものではないでしょうか?動物実験の現場においてもしかり。無味乾燥な動物実験環境はデータ収集に悪影響を及ぼすことが示されています。
昭和40年(1965年)ごろ

私は山口県の生まれです。昭和40年ごろの山口の田舎では、押し入れや床下、天井裏などにネズミが巣を作り子供を産み増やしておりました。天井裏では木くずやワラ屑などを集めうまく巣作りをしており、押し入れではボロ切れや新聞紙などを巣材に使っておりました。ひと目につくような場所には決して巣はありません。子供のころ見たこの光景がネズミの好む住まいではないかと思います。床敷き材や巣作り材、身を隠す場所など検討してみては如何いかがでしょうか?
げっ歯類の飼育はボトムタイプケージに移行します

最近、床敷飼いケージが多く使われるようになりました。これは動物に対して環境エンリッチメントが施されるからです。その他のメリットも数多く考えられます。しかし、毒性試験の飼育環境では、依然として金網底ケージが使われているケースがほとんどです。これは日本だけに限らず欧米でも同じようです。ボトム型ケージを使用できない理由として、動物がケージ内の床敷や糞を食したりするため、データに影響を及ぼすおそれがあるためだと考えられます。そういう理由で金網ケージを使い続けることは動物の環境エンリッチメントに対して進歩がないと思います。欧米ではげっ歯類の動物実験に専用玩具や、シェルターなどが多く使用されております。それらを使用することで動物の精神的な面を安定させることが多く発表されております。毒性試験に使われる金網ケージ内に、齧ってもデータに影響を及ぼさない材質の玩具や一部の平底部、巣を造る材料などを入れてやることができれば、現状より改善されるのではないでしょうか?もちろん目標としては金網底ケージを使用しないことを目指すことになります。このことにより飼育管理に手間がかかりすぎるかもしれませんが、もとより動物実験は時間とお金がかかるものです。
Stereotyped behavior(紋切り型行動)

古い話ですが、動物園で白クマが柵内のプールに飛び込み潜って浮き上がり岩に登り少し歩きまた飛び込む光景を見かけました。クマさんはその行動を何度も繰り返しておりました。同じタイミングでよくできるな~と感心しておりましたが、一連の行動は動物の精神面で黄色信号とは気がつきませんでした。わけもなく同じ行動を繰り返すことをStereotyped behavior(紋切り型行動または常同行動)と言います。岩場もありプール付きにもかかわらず何年も同じ場所に居て同じ日課を繰り返すことは、動物本来の行動欲求ができないのでストレスがたまってくるのでしょうか?動物実験に供される動物たちは常時ケージ内に居るケースが多く、ストレスの要因が多いのではないでしょうか?実験用イヌの黄色信号症状は、ケージ壁面や餌容器に糞をする、ケージ内をぐるぐる回る、ケージの格子などをナメ続ける、ケージのスミから動こうとしない、噛みつく、爪が剥がれるほど穴掘り行動を繰り返すなどの行動がみられます。早く気付き対応する必要があります。定期的なコミュニケーションとしてサークルなどで遊ばせる、隣のケージと往来できるようにする、人とのコミュニケーションをとる、エンリッチメントディバイスを与えるなど工夫が必要ではないでしょうか?ただエンリッチメントディバイスを与えるだけではなく、ディバイスのローテーションも忘れてはいけません。エンリッチメントディバイスにより異常行動を少なくする予防にはなりますが、すべてを解決できません。いかに早く奇妙な行動を見つけ出し対応をしてあげるかが問われます。それは昔から実験に携わる人に言われている観察の重要性です。
ザ・ガイド 2010年度版

ザ・ガイド(Guide for the Care and Use of the Laboratory Animals)第8版2010が発行されました。1996 年以来の改訂です。その中でとりわけ大きく取り上げられているのが環境エンリッチメントです。旧版でも環境エンリッチメントという言葉はあちこちにちりばめられていましたが、今回は独立した「環境エンリッチメント(Environmental Enrichment」という項目ができています。環境エンリッチメントについて約2ページ にわたって詳述されています。「環境エンリッチメントの第1の 目的は動物福祉を高めることである。」と書き始められ、「適切な環境エンリッチメントは動物の不安とストレスを緩和するので、実験の感受性を高め、そして実験動物の数を削減することになる。」と結んでいます。ここに至る道のりを私なりにまとめてみました。
さて、私が実験動物用エンリッチメントディバイスに興味をもったのは、1997年アメリカ実験動物学会(AALAS)に参加したときです。開催地はカリフォルニア州アナハイムでした。学会展示のなかでエンリッチメントディバイスを見つけたのがはじまりでした。製品の種類はいまのように沢山はありませんでした。ペットショップでよく見かける商品のようにも思えました。渡米のときチャンスがあれば大学や公的研究施設、製薬会社などの動物施設を見学しました。ほとんどの施設でケージ内に、1個ないし複数の環境エンリッチメントディバイスが入れられていたことには驚かされました。 資料やサンプルをアメリカから持ち帰り国内で多くのPRをさせていただきました。展示会にも数々出展してまいりました。最初はなかなか理解していただくことができませんでしたが、最近では多くの施設でご採用いただけるようになり喜んでおります。
アメリカ国立衛生研究所(NIH)動物施設見学

9・11事件のあった2001 年の 10 月にアメリカ国立衛生研究所(NIH)の動物施設を見学しました。そのとき、以下の所感を持ちました。従来からサル類やイヌについて環境エンリッチメントが叫ばれていましたが、アメリカではマウスやラットについても実用の段階に入っています。とくに小動物の環境エンリッチメントの資料をまとめてみました。 床敷き飼いケージ内に円筒形でまるでトイレットペーパーの芯のような物が入れてあり、その筒の中を楽しそうにマウスが走り抜けていました。なかには筒内に隠れているマウスもいて動物実験中とは思えないような光景を見ることができました。何も入れていないケージで飼育しているマウスと比べ落ち着きがあるようにも思えました。 ケージ内にもう一つ変わった物が入っておりました。5cm四方の紙片(Nestlets)で厚さが6~7mmの圧縮した物でした。ハードチップなどを使用する場合、特に効果がある代物だそうです。コーンや木片チップを使用したいが巣造りが、とお悩みの方にぜひお勧めします。マウスは噛み砕いた紙片できれいなサークルを造りその中で気持ちよさそうにしていました。噛み砕く材料、巣造りの材料があることはマウスに対して環境エンリッチメントに役立つのではないかと思いました。
まとめ

ケージの中に玩具を入れ動物を退屈させないだけが環境エンリッチメントではありません。動物室内環境(温度、湿度、照明、換気、騒音、ケージの構造や配置)などが対象動物に適合していることが大切ではないでしょうか?また、研究者や飼育担当者は動物とフレンドリーでなければならないと思います。相手は喋りませんが声をかけてあげたりすることも良いことではないでしょうか?実験用ミニブタなどは子供のころからスキンシップやペットのような接し方をすることにより手技が簡単になるケースが多いといわれております。人も動物も長期間の孤独生活は精神的苦痛を多く感じるでしょう。複数で居られること、もしくは隣との往来ができるなどは大切な要素です。ストレスの症状を早く見つけて対応する、動物の習性をできるだけ生かす施設の設計やケージ作りを行ってまいりたいと思っております。動物実験が人のために不可欠な現状であるかぎり、動物の苦痛の軽減をする努力をしなければならないのではないでしょうか?それが結果として実験結果の精度を高め、ひいては使用動物数の削減につながるものと思われます。(最後までおつきあいいただきありがとうございました。)
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