Institute of Laboratory Animal Resources
Commission on Life Science
National Research Council
動物実験に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory
Animals)(以下、指針)は1963年に実験動物の施設と管理に関する指針という表題で初めて出版され、1965、1968、1972、1978および1985年に改訂された。初めて出版されて以来40万部以上が配布され、動物実験に関する基本的参考資料として広く受け入れられている。この第7版の変更と新資料は、指針は状況の変化と新情報にともなって修正することという信条にしたがうものである。
指針の目的は、動物実験に関する指針の改訂委員会の任務にも示されているように、研究機関が科学的に、技術的にそして人道的に適切であると判断できるやりかたで動物実験を行えるように支援することにある。また、指針は、研究者が、最高に科学的で人道的で倫理的な原則に従って動物実験を計画し実施するべき義務を果たすのを支援することも意図している。勧告は、公表データ、科学的原理、専門家の意見、および高質の人道的動物実験と一致することが証明されている方法と手順に関する経験に基づいている。
指針のこれまでの版は、国立衛生研究所 (National Institute of Health)(NIH)によってのみ支持され、政府印刷局によって出版された。その広範な利用を意図して、この版はNIH、農務省およびVeterans'
Administrationによる経済的支援を受けて、National Academy Pressによって出版された。
指針は、動物実験プログラムの重大要素に関して4章に編成されている:すなわち研究所の方針と責任、動物の環境、収容および管理、獣医学的管理、および施設である。研究所役員の責任、研究所の動物実験委員会、研究者および獣医師の責任は各章で論じられている。
1991年に、実験動物資源局(Institute of Laboratory Animal Resources
(ILAR))によって任命された特別委員会は、指針を改訂すべきことを勧告した。動物実験に関する指針改訂委員会は1993年にNational
Research Council によって任命された。その15人の委員には、研究者、獣医師、および生命倫理および動物福祉に関する大衆の関心を代表する非科学者が含まれていた。
改訂を始める前に、指針に関する書面および口頭による意見を学会および一般大衆から広く仰いだ。公開討論会を1993年12月にワシントンで、1994年2月にサンフランシスコで、1994年2月にセントルイスで開催した。これらの討論会で得られた意見よび書面による意見は委員会によって考慮され、指針のこの版に十分に反映されている。(以下、謝辞、省略)
適切な収容と動物施設の管理は、動物の安寧、研究データと動物が使われる教育または検査プログラムの品質、および職員の健康と安全にとって必須である。良い管理プログラムによって、動物が成長し、成熟し、繁殖し、そして優れた健康を維持するための環境、収容そして管理が生まれ、動物福祉に寄与し、そして研究結果に影響を及ぼすバラツキが最小限になる。特定の操作手順は個々の研究所や状況に特有の多くの要因によって決まる。十分に訓練され意欲のある職員によって、最適でない設備・機器を装備した研究所においても、高質の動物管理が確保されることが多い。
十分かつ適切な物理的・社会的環境、収容、スペース、および管理方式を計画するさいには多くの要因を考慮に入れるべきである。それはには以下のような要因がある。
● 動物の種、系統および品種、ならびに性、齢、大きさ、行動、経験、および健康状態
● 動物が個別飼育されているか群飼育されているかにかかわらず、視覚、嗅覚、そしてたぶん接触をつうじて社会集団を作る能力があるかどうか
● 収容のための設計と構造
● エンリッチメントの利用または適切性
● プロジェクト目標と実験計画(たとえば、生産なのか、繁殖なのか、研究なのか、検査なのか、教育なのか)
● 動物にかける手技の強さと行う処置の侵襲度
● 有害物質あるいは病因物質の存在
● 飼育期間の長さ
動物は種特異的な行動を最大限に発揮させ、ストレス誘因性の行動を最小限に押さえる目標で収容しなければならない。群居性の動物種では、通常、相性のよいペアまたはグループで収容する必要がある。望ましい収容を達成するための戦略は動物管理職員によって開発され動物実験委員会によって審査され承認されなければならない。動物実験委員会による意志決定は、研究者と獣医師と協議して、その動物種の健康と安寧にとって適切であり研究目的と矛盾しないと考えられる専門的な飼養業務のための高い水準を達成することを目標にしなければならない。意志決定プロセスのあとには、動物の環境、飼養、および管理が適切であることを具体化するために客観的を評価をしなければならない。
動物を維持する環境は、その動物種、その生活歴、その意図する用途にとって適切でなければならない。動物種によっては、繁殖と維持のために自然環境に近づけることが適切であることがある。実験または対象動物(たとえば、ハザード物質の使用、行動研究、免疫学的不全動物、家畜、および今までに使われたことのない実験動物種)にともなう特殊な条件のために専門家のアドバイスを求めてもよい。
以下の節では、一般的な実験動物に関する物理的環境について考慮すべきことを論じている。
動物のミクロ環境とは、その動物を直接的に取り囲んでいる物理的環境である。すなわち、それ自体の温度、湿度、および空気中のガス性と粒子性成分を持つ一次エンクロージャーである。室、小屋、あるいは野外生息地のような二次エンクロージャーはマクロ環境を構成する。ミクロ環境とマクロ環境は一次エンクロージャーと二次エンクロージャーとの間の換気によってリンクしているけれども、一次エンクロージャー内の環境は二次エンクロージャー内の環境とは全く異なっており、両エンクロージャーの設計の影響を受ける。
ミクロ環境の特性を測定することは小さな一次エンクロージャーでは難しい。温度、湿度、ガスおよび特定物質の濃度はマクロ環境内よりも動物のミクロ環境で高いことが多いというデータがある(Besch
1980; Flynn 1959; Gamble and Clough 1976; Murakami 1971; Serrano
1971)。ミクロ環境条件は代謝的および生理的プロセスの変化あるいは病気に対する感受性の変化を起こす可能性がある(Broderson
and others 1976; Schoeb and others 1982; Vesell and others 1976)。
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一次エンクロージャー
一次エンクロージャー(通常、ケージ、ペン、ストール)は動物のすぐ近くの環境を制限する。好ましい一次エンクロージャーは以下のとおりである。
● 排尿と排糞、体温の維持、正常な運動および姿勢制御、そして必要なら繁殖など、動物の正常な生理的および行動的ニーズを考慮すること
● エンクロージャー内あるいはエンクロージャー間の社会的相互作用や上下関係づくりができること
● 動物を(その種のニーズと矛盾しないように)清潔で乾燥させておくことができる
● 適切な換気ができる
● 動物が餌と水を摂取やすく、給餌・給水器の充填、補充、交換、サービス、清掃が容易であること
● 動物が逃亡したり、動物またはその体の一部が事故で対面の間または開口部に挟まったりしないような安全な環境であること
● 動物に外傷を起こさせるような鋭い端や突起がないこと
● 動物にできるだけ不安を与えないように観察できること
一次エンクロージャーは動物のニーズと、衛生的にできることのバランスを保てる材料で組み立てられなければならない。一次エンクロージャーは、その表面が突き出し部や、角、隅ができるだけ少なく、なめらかで耐水性でなければならず、汚れ、ごみ、湿気がたまらず、十分な清掃や消毒が可能なように表面が覆われていなければならない。一次エンクロージャーは腐食しにくい耐久性の材料で組み立てられ、手荒い取り扱いによってもかけたり、ひびが入ったり、さびついたりしないようでなければならない。木材のように耐久性の低い材料は、(囲い、ペン、屋外生息地のような)状況においてはより適切な環境をつくる場合があり、一次エンクロージャーのためのとまり木、登り降り構造、休息所、囲いフェンスをつくるのに使われる。木製のものは壊れたり消毒しにくいために定期的に交換する必要が生じる。
すべての一次エンクロージャーは動物の逃亡や外傷を防ぎ、肉体的快適さを促進し、消毒やサービスをしやすくするために手入れをよくしておかなければならない。動物の健康や安全を脅かす錆びたあるいは酸化した器具は修理するか交換しなければならない。
収容システムには、フィルタートップ・ケージ、換気付きケージ、アイソレーター、仕切など、特殊なケージや換気設備のついたものがある。一般的に、このようなシステムの目的は、ケージ間またはケージグループ間における空気伝播病原体の拡散を少なくすることである。このようなシステムは、床敷交換頻度の変更、無菌操作の使用、および空気伝播ルート以外による微生物伝播を防ぐために特殊な洗浄、消毒または滅菌法など異なった飼育管理を必要とすることが多い。
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げっ歯類は金網床で飼育されることが多いが、これによって尿や糞が収集トレイの上に落ちてケージの衛生状態がよくなる。しかし、床敷の入った平底ケージのほうがげっ歯類が好むというデータもある(Fullerton
and Gilliatt 1967; Grover-Johnson and Spencer 1981; Ortman and others
1983)。床敷の入った平底ケージは、それゆえに、げっ歯類に推奨されている。ビニールコーティングした床は、イヌやサル類などの他の動物種によく使われる。動物管理プログラムのこの面に関する動物実験委員会の査察は、ケージが、良い衛生と研究プロジェクトの要求と矛盾せずに動物福祉を高めていることを確かめなければならない。
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シェルターまたは屋外における収容
小屋、さく囲い、放牧場、島などのシェルターまたは屋外における収容は、ある種の動物種の一般的な一次収容方式であり、多くの状況で認められる。多くの場合に、屋外での収容は群での動物の維持が必要となる。
動物が屋外の囲い、ペンまたは他の大きなエンクロージャーで維持されているときには、極端な温度や他の厳しい気象条件からの保護やおとなしい動物のための適切な保護または逃避メカニズムが備わっていなければならない。この目標は、風よけ、シェルター、日陰地、強制換気エリア、熱放射構造、あるいは囲いの屋内部分のような空調スペースへの退却手段を設けることによって達成できる。シェルターにはすべての動物がはいれなければならない、そして十分な換気があり、排泄物や過剰な湿気が溜まらないように設計されていなければならない。家屋、穴、箱、棚、とまり木そして他の設備は、設備類が過度に汚れたり痛んだときに一般に認められている飼育管理に従って清掃したり交換できるように組み立てられたり、そのような材料で作られていなければならない。
屋外収容施設の床または土間表面は、適切な衛生を確保するのに必要なときに、除去したり交換できるように土、吸水性敷き料、砂、砂利、草あるいは同様の材料でカバーすることができる。動物の排泄物やよどみ水が過剰に蓄積することは、たとえば、傾斜面を設けることによって避けなければならない。他の表面は風火水に耐えメンテナンスが容易でなければならない。屋外収容の管理を成功させるためには以下のことを考慮する
● 動物をはじめて屋外収容に導入するときには気候的変化に先立って適切な馴化期間を設ける
● 動物が獣医師や研究者に協力し保定または輸送のためにシューターまたはケージに入るように訓練する
● 動物種に適した社会的環境
● 相性の良い動物同士のグループ分け
● 囲い柵または他の手段による安全確保
自然な環境
放牧場や島のようなエリアによって動物の維持または生産に、およびあるタイプの研究にとって適切な環境が得られる機会となる。この利用の結果として、栄養、健康管理および見張りのコントロール、ならびに血統表管理にロスが生まれる場合がある。このような制約は動物をより自然な環境下で生活させるというベネフィットとバランスを取らなければならない。このような場では個々の動物あるいは群に対する配慮を適切に行い動物を社会集団に加えたり、外したり、戻したりしなければならない。
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体温を正常な変動内に調節することは恒温動物の安寧にとって必要である。一般的に、馴化されていない動物を、シェルターあるいは他の防御機構にアクセスできないまま、29.4℃以上または4.4℃以下に暴露すると、臨床的影響が現れ(Gordon
1990)、生命の危機となるおそれがある。動物は行動的、生理学的および形態学的メカニズムによって極端な温度に適応することができるが、このような適応には時間がかかり、プロトコールの結果に変化を与えるか、さもなくばパフォーマンスに影響を及ぼす(Garrard
and others 1974; Gordon 1993; Pennycuik 1967)。
環境温度と相対湿度は、飼育と収容の設計に依存しており、一次エンクロージャーと二次エンクロージャーとの間でかなり異なる。温度と湿度の変動に影響する要因には、収容設備の材質と構造、フィルタートップの使用、ケージあたりの動物数、エンクロージャーの強制換気、床敷交換の頻度および床敷のタイプがある。
術後回復期、孵化後数日間のひなの維持、ヘアレスげっ歯類の収容、母獣から離された新生仔の収容など、状況によっては温度を上げる必要のあることがある。温度をあげる程度は収容状況によって異なる。すなわち、(二次エンクロージャーの温度を上げるよりも)一次エンクロージャーだけの温度を上げれば十分のことがある。
十分にコントロールされた研究がないので、専門家の判断と経験によって、いくつかの一般的な動物種に乾球温度の基準(表2.4)ができている。狭いスペースにいる動物の場合には、温度環境における変動を補正するための動物の代謝的および行動的プロセスに及ぼす反復する大きな負荷を防ぐために、毎日の温度高下の幅は最小限に維持されなければならない。相対湿度もコントロールされなければならないけれども、温度ほど狭い必要はない。相対湿度の許容幅は30から70%である。表2.4の温度幅は捕獲野生動物、自然環境で維持されている野生動物、あるいは季節変動に暴露されて適応する機会を与えられている屋外エンクロージャーにいる動物には当てはまらない。
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表2.4 一般的実験動物に対する乾球温度の基準
換気の目的は、適切な酸素を供給すること;動物の呼吸、照明、器具によって生じる温度負荷を除去すること;ガスおよび粒子汚染を希釈すること;室内空気の水分含量を調整すること;および必要なら、隣接スペース間の静圧差を作ることである。しかし、室内換気回数を設定することは、動物の一次エンクロージャーの換気の適切さを保証するものではなく、すなわちミクロ環境の品質を保証するものではない。
気流(通風)がどのていど不快あるいは生物学的影響を起こすかは、多くの動物種で明らかになっていない。一つの部屋に供給される空気の量と物理的性質およびその拡散パターンは動物の一次エンクロージャーの換気に影響するので、そのミクロ環境の重要な決定因子である。吸気口および排気口のタイプと位置と、室または他の二次エンクロージャー内における一次エンクロージャーの数、配置、位置およびタイプとの関係は、一次エンクロージャーがいかに効率的に換気されるかに影響するので、考慮しなければならない。熱負荷と空気拡散パターンに関するこれらの要因を評価するためにコンピューターモデルを使用することによって、一次エンクロージャーと二次エンクロージャーの最適化をすることができる(たとえば、Hughes
and Reynolds 1995; Reynolds and Gughes 1994)。
1時間あたり10-15回の換気回数の指針が長年の間、二次エンクロージャーに使われてきており、一般的基準として認められてきている。これは、多くの動物収容の場で有効であるが、指針は考えられる熱負荷の範囲;当該動物の種、大きさおよび数;床敷のタイプあるいはケージ交換の回数;室の大きさ;二次エンクロージャーから一次エンクロージャーへの空気分布の効率を考慮に入れていない。状況によっては、このような広範な指針によって、少数の動物が入っている二次エンクロージャーを過剰換気し、それによってエネルギーを浪費することにより、あるいは多くの動物の入っているに時にはエンクロージャーの換気不足のために熱と臭気を蓄積することにより問題を起こすこ可能性がある。
必要な換気をもっと正確に決定するために、動物が発生する熱負荷を調整するのに必要な最小換気回数(通常、1分あたりの立方フィート)を機械技師の支援により計算することができる。動物が発生する熱はthe
American Society of Heating, Refririgeration, and Air-Conditioning
Engineers (ASHRAE)が発表している平均トータル熱増加式によって計算できる。この式は動物種によって異なり、熱を発生する動物に応用できる。必要な最小換気回数は、エンクロージャー内に収容される動物の最大数によって発生すると思われる熱負荷をコントロールするのに必要な冷却量(トータル冷却負荷)プラス動物以外の熱源が発生する熱と室表面を通じる熱移動を計算することによって決定される。トータル冷却負荷計算法は、一定の換気回数を持つ動物スペースにそのスペースに収容できる動物の最大数(トータル動物質量に基づく)を決定するためにも用いることができる。
この計算は、熱の蓄積を防ぐのに必要な最小換気回数を定めるのに利用できるけれども、他の要因-たとえば、臭気コントロール、アレルゲン・コントロール、粒子発生あるいは代謝により発生するガスのコントロールなど-は計算された最小回数以上の換気を必要とするかもしれない。計算された必要最小換気回数が1時間あたり10回よりも低いときには、もし、その結果として毒性のあるガス、臭気あるいは粒子が有害なあるいは許容できない濃度にならなければ、換気回数を減らすことがその二次エンクロージャーにとって適切である。同様に、計算された必要最小換気回数が1時間あたり15回よりも多いときには、他の要因を調節するのに必要な換気回数を増やすべきである。場合によっては、二次エンクロージャーにおける一定の換気回数は、適切な環境条件を維持するために、衛生スケジュールを調節したり、動物数を制限したりすることが必要となる。
濾過した室内空気を用いる強制換気のケージおよび独立給気装置(すなわち空気を室から引かない)のついた他のタイプの特殊な一次エンクロージャーは、独立一次エンクロージャー換気がない場合に必要とされる程度までに二次エンクロージャーを換気する必要がなしに,動物の換気条件を有効に調整することができる。それでも,二次エンクロージャーは一次エンクロージャーから放出される熱負荷に備えて十分に換気されなければならない。汚染リスクを避けるために特殊なエンクロージャーに適切な粒子およびガス濾過装置が付いている場合には,二次エンクロージャーにリサイクル空気を用いることができる。
あるタイプのげっ歯類ケージに用いられているような,強制換気装置のない濾過アイソレーションケージは,換気が悪い。そのため、環境と熱消散を改善するために、衛生、二次エンクロージャー内のケージ配置、ケージ密度など、飼育管理方法を調整する必要があるかもしれない。
動物室を換気するためにリサイクル空気を用いることによって、かなりの量のエネルギーを節約できるが、ある程度のリスかがともなう。多くの動物病原体は空気で運ばれるか埃のような媒介物に乗って移動する。したがって、複数の動物室に供給する暖房、換気、空調システム(HVAC)に排気をリサイクルすることは交差汚染のリスクを生む。リサイクルするための排気はリサイクルする前に空気伝播粒子を除去するためにHEPAフィルターで濾過しなければならない。濾過の程度と効率は予想されるリスクに比例していなければならない。HEPAフィルターは最大限のリスクに対抗するために用いることができるいろいろな効率に適している(ASHRAE
1992, 1993)。動物利用エリアに由来していないが他のスペース(たとえば、人の居室や飼料、床敷、供給品保管エリア)を換気するのに用いられた空気は動物スペースの換気のためにリサイクルすることができ、動物利用エリアから空気をリサイクルするよりも濾過や冷暖房を弱くすることができる。しかし、状況によってはリスクが大きすぎてリサイクルを考えられないことがある(たとえばサル類エリアやバイオハザードエリア)。
アンモニアのような毒性のある、あるいは臭気を起こすガスは、換気システムによって除去し、低濃度のガスを含むか、あるいはこのようなガスを含まない空気で置換されれば許容限界内に維持できる。リサイクル空気をこのような物質の化学的吸着または洗浄によって処理することは有効であるが、動物実験エリアまたは動物保管エリアの換気には非リサイクル空気のほうが好まれる。(活性炭フィルターのような)ガス濾過をしていないHEPAフィルター濾過空気を用いることは可能であるが、以下のような場合に使用が限定される;
● 室内空気は少なくとも50%の新鮮空気と混合される(すなわち、給気はリサイクル空気を50%以上含まない)
● 床敷交換とケージ洗浄回数のような飼育管理および用いるリサイクル空気の調製が有毒ガスや臭気を最小限にするのに十分である
● リサイクル空気は、動物収容エリア以外から来る場合を除いて、それが発生する室またはエリアからのみ戻る
● リサイクル空気は、そのスペースにいる動物の温湿度条件を満たすよう適切に空調され十分な新鮮空気と混合されている
室内の低い動物密度および低い温湿度のような飼育管理とあわせて、頻繁に床敷を交換しケージ洗浄を行うことによっても、動物室内の空気中の有毒または臭気のあるガスの濃度を減らすことができる。リサイクル空気を粒子またはガス汚染物を除くために処理することは経費がかかり、濾過システムの不適切または不十分なメンテナンスによって無効となりうる。このようなシステムは、その有効性を最大限にするために適切にメンテナンスしモニターしなければならない。
暖房、換気、空調(HVAC)システムをうまく運転するには、二次エンクロージャーのレベルにおけるその機能の測定など定期的なメンテナンスと評価が必要である。このような測定には、給気量と排気量および、できれば、静圧差が入らなければならない。
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光は各種動物の生理、形態および行動に影響する(Brainard and others 1986; Erkert
and Grober 1986; Newbold and others 1991; Tucker and others 1984)。考えられる光ストレッサーには、不適切な照明時間、照度、およびその光のスペクトルがある(Stoskopf
1983)。数多くの要因が動物の光に対するニーズに影響し、適切な照明レベルを動物保管室に確立するときに考慮しなければならない。これらの要因には、照度、暴露持続時間、光の波長、動物の光履歴、動物の色素沈着、概日サイクル中の光暴露時間、体温、ホルモン状態、齢、動物種および品種または系統がある(Brainard
1989; Duncan and O'Steen 1985; O'Steen 1980; Saltarelli and Coppola
1979; Semple-Rowland and Dawson 1987; Wax 1977)。
一般的に、照明は動物保管エリア全体に均一に拡散し、動物福祉にとって十分に明るく、十分な飼育管理業務ができ、ラックの最下段を含め動物の適切な検査ができ、職員の安全な作業条件を可能にするものでなければならない。動物保管室の照明は、適切に見えて、日中および概日サイクルの神経内分泌統御ができるものでなければならない(Brainard
1989)。
照明時間は多くの動物種の繁殖行動を決定的に規定するものであり(Brainard and others
1986; Cherry 1987)、増体重および飼料摂取量にも変化を及ぼす(Tucker and others 1984)。暗サイクル中の不適切な光暴露は最小限にするか避けるべきである。動物種によっては薄暗いところや暗いところでは食べないものがあるので、このような照明スケジュールは、動物の安寧に悪影響を及ぼさない持続時間に制限すべきである。規則的な日内サイクルを確保するために時間制御照明システムを用いるべきであり、適切なサイクルをするようにタイマー機能を定期的にチェックすべきである。
多くの一般的に用いられている実験動物は、夜行性である。アルビノラットは他の動物種よりも光毒性網膜障害に感受性が高いので、室内照明レベルを決めるのに使われてきた(Lanum
1979)。科学的研究に基づく、他の動物種の室内照度のデータがある。床上約1m、約325 luxの明るさが動物のケアにとって十分と思われ、アルビノラットにおいて光毒性網膜障害の臨床徴候を起こさない(Bellhorn
1980)。そして、空室で床上1mで測定された400 luxまでのレベルは、アルビノ種における網膜障害を防ぐための管理が行われるならばげっ歯類にとって満足すべきであることがわかっている(Clough
1982)。しかし、個々の動物の光経験は光毒性に対する感受性に影響する;動物が育成された照度よりも130-270 lux以上明るいと、組織学的、形態学的および電気生理学的事実からある種アルビノラットにおける網膜障害の閾値に近いことが報告されている(Semple-Rowland
and Dawson 1987)。指針の中には動物の位置における照度を40luxで推奨しているものがある(NASA 1988)。若いアルビノおよび有色マウスは成マウスよりも低い照度を好む(Wax
1977)。しかし、これらのげっ歯類を高い照度で飼育することによる網膜障害はほとんど可逆性である。このように、光毒性網膜症に感受性であることがわかっている動物には、ケージレベルでの明るさは130と325
luxの間になければならない。
光源に対するケージのローテーション(Greenman and others 1982)あるいは動物を行動手段によって光暴露を調整させる(たとえば構造上トンネルを掘ったり隠れたりできる)ような飼育管理を採用することによって動物にとっての不適切な光刺激を減らすことができる。可変照度コントロールは動物および動物室で働く職員のニーズを満足させ、エネルギー節約に通じると考えられる。このようなコントロールは、アナログまたはデジタルセッティングタイプにし、単に室内灯の点滅で行ってはならない。Illuminating
Engineering Society of North America (IESNA)ハンドブック(Kaufman 1984,1987)は均一な照明、色調インデックス、シールド、まぶしさの制御、反射、寿命、熱発生、安定装置の選択を決めるさいに役立つ。
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動物および動物管理活動によって生じる騒音は動物施設の運営において固有のものである(Pfaff and
Stecker 1976)。それゆえに、騒音コントロールは、施設の設計および運営において考慮しなければならない(Pekrul 1991)。動物に及ぼす騒音の影響を評価することは、音の強さ、周波数、発生速度、持続時間および音の震動効果と聴能範囲、騒音暴露履歴、ならびに動物種、品種、系統の音響感受性を考慮することである。
ヒトのエリアと動物のエリアを分離することによってその施設に居を構えているヒトと動物の双方に対する障害を減らすことができる。イヌ、ブタ、ヤギ、サル類のようにやかましい動物は、げっ歯類、ウサギ、ネコのように静かな動物とは離して収容すべきである。騒音を減らす手段に頼るよりも、騒音を出す動物に合った環境を設計すべきである。85
dB以上の音に暴露すると、げっ歯類における好酸球減少症や副腎重量の増加(Geber and others 1966; Nayfield
and Besch 1981)、げっ歯類における繁殖成績の低下(Zondek and Tamari 1964)、サル類における血圧上昇(Peterson
and others 1981)など聴覚および非聴覚効果を及ぼす(Fletcher 1976; Peterson 1980)。多くの動物種はヒトが聴けない周波数をきくことができる(Brown
and Pye 1975; Warfield 1973)。したがって近くにいる動物の聴能範囲内の騒音を出す器具や材料、たとえばビデオ・ディスプレー端末(Sales
1991)など、は注意しなければならない。できるだけ、騒音を出す活動は動物収容に用いる室から離れた室あるいはエリアで行うべきである。
動物が異なると暴露のパターンの変化の影響が異なるので(Armario and others 1985;
Clough 1982)、職員は不要な騒音の発生を最小限にするように努めなければならない。過剰で断続的な騒音は、職員を訓練して騒音を出す作業をさせないようにすることによって、そして、カート、台車、ラックにクッションの付いたキャスターやバンパーを用いることによって、減らすことができる。ラジオ、アラーム、その他の音源は、それが承認されたプロトコールまたはエンリッチプログラムの一部でないかぎり動物室で用いてはならない。
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構造的環境は、一次エンクロージャーの要素、すなわちケージ内備品、環境エンリッチメントのための装置、動物による手遊びの対象物、およびケージ付属物からなる。動物種および動物の利用目的によって、構造的環境には、休憩板、棚あるいはとまり木、玩具、給餌器、巣作り材、トンネル、ブランコ、あるいは他の種特異的な姿勢や活動を表現する機会を増やし、動物の福祉を高めるような対象物を含めなければならない。多くの動物の博物学や環境的ニーズについては多くが近年になって知られるようになった。一般的な実験動物種のためのエンリッチメント戦略を記したいくつかの文献を付録Aおよびthe
Animal Welfare Information Center (AWIC 1992; NRC 印刷中)にリストされている。
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動物の社会的ニーズを考慮しなければならない。社会的環境には、通常、同じ動物種のメンバー間の肉体的接触およびコミュニケーションが含まれるけれども、視覚、聴覚および嗅覚信号を通じての個体間の非接触的コミュニケーションを含めることができる。それが適切でありプロトコールと矛盾しなければ、群居動物は同種動物と肉体的接触ができるように収容しなければならない。たとえば、群居サル類およびイヌ科の動物は、グループが相性の良い個体で編成されれば動物にとって有益なことが多い。同種動物間の適切な社会的交流は多くの動物種における正常な発育にとって必須である。社会的伴侶はストレスの多い状況の影響をやわらげ(Gust
and others 1994)、行動の異常を減らし(Reinhardt and others 1994)、運動の機会を増やし(Whary
and others 1993)、種特異的な行動と認識刺激を拡大する。飼育密度、四散能力、動物間の最初の親しみやすさ、社会的序列などの要因をグループ分けするときに評価しなければならない(Borer
and others 1988; Diamond and othrers 1987; Drickamer 1977; Harvey
and Chevins 1987; Ortiz and others 1985; Vandenbergh 1986, 1989)。適切な社会的環境を選択するさいに、その動物が自然では縄張り的であるか親しくまじわるのか、個別、ペアあるいはグループで収容しなけれならないかに注意を払わなければならない。種特異的な自然な社会的行動を理解することによって社会的収容が成功しやすくなる。
しかし、群居動物種のすべてのメンバーが群で維持できる、あるいはしなければならないというわけではない;実験的、健康的および行動的理由からこの種の収容が成功しないかもしれない。群による収容はファイティングによる動物の外傷の可能性を増やし(Bayne
and others 1995)、アテローマ性動脈硬化症のような代謝性異常に対する感受性を増加させ(Kaplan and others
1964) 、行動および生理機能を変化させる(Bernstein 1964; Bernstein and others 1974a,
b)。さらに、雌雄間の相性の差が各種の動物種において観察されている(Crockett and others 1994; Grant
and Macintosh 1963; Vandenbergh 1971; vom Saal 1984)。群収容のこのようなリスクは動物が社会的に相性が良く社会単位が安定していれば非常に少なくなる。
群居動物はグループで収容することが望ましい;しかし、個別に収容すべき時には、他の動物がいないことの埋め合わせに他の形態のエンリッチメントを与えなければならない。たとえば
スタッフとの安全で 積極的な相互作用や構造的環境のエンリッチメントがある。
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動物の活動とは典型的には運動筋肉の活動であるが、認識活動と社会的相互作用も含まれる。実験室環境で維持されている動物は、境界のないエリアにいる動物にくらべて行動範囲が制限されている。適切な収容の評価あるいは動物が表現する活動の量または質の適切性の評価にあたっては、動物の筋肉運動の活動を、垂直の広がりの利用も含めて、考慮しなければならない。治療目的あるいは承認されたプロトコール目的に合致する試み以外には強制的活動は避けなければならない。多くの動物種において、反復的で目的を持たず他の行動をさせない肉体的活動は望ましくないと考えられている(AWIC
1992; Bayne 1991; NRC 印刷中; 付録A “エンリッチメント”参照)。
動物には種特異的な行動パターンを発揮する機会を与えなければならない。イヌ、ネコおよび他の多くの飼い慣らされた動物は積極的な人との相互作用からベネフィットを得る(Rollin
1990)。イヌは、革ひもでつないで歩かせたり、通路に出したり、社会的接触、遊びあるいは探検のために他のエリア(たとえば、室、大きなケージあるいは屋外のペン)に移動させることによって活動の機会を与えることができる。獣医学的管理や研究目的のためにイヌの短期の収容にケージが用いられることが多いが、ペン、通路および他のケージ外エリアが多くの運動スペースを提供し、それらの使用が推奨され(Wolff
and Rupert 1991)る。遊び場、運動場および放牧場がヒツジ、ウマ、ウシなどの大家畜に適している。
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動物には嗜好性がよく、汚染されておらず、栄養的に適切な餌を毎日、あるいはプロトコールが別に要求する特定の条件に従って給与しなければならない。the
National Research Council Commitee on Animal Nutritionの下部委員会は実験動物の栄養要求量の包括的取扱書を作成している(NRC
1977, 1978, 1981a,b, 1982, 1983, 1984, 1985a,b, 1994, 1995)。これは品質保証の問題、飼料原料中における化学的あるいは微生物学的汚染のないこと、および天然毒素が含まれないこと、飼料中の栄養素の利用性および嗜好性を考慮に入れている。
動物コロニーの管理者は、病気、寄生虫、病気ベクター(たとえば昆虫や他の害虫)および化学的汚染物が動物コロニーに導入されるのを減らすために、飼料の購入、輸送、貯蔵および取り扱いについて賢明でなければならない。購入者は、メーカーおよび代理店における品質保護と確保のための操作手順(たとえば、貯蔵、害虫駆除および取り扱い手順)を考慮したほうがよい。研究所は、飼料販売業者に重要な栄養素に関する飼料分析データを定期的に出すように要請しなければならない。ユーザーは餌の有効期間に影響するメーカーのデータおよび他の要因を知っていなければならない。古くなった餌および不適切に輸送され貯蔵された餌は栄養素が欠乏しているおそれがある。一回あたりの受入量に注意を払いストックは先入れ先出しができるようにローテーションしなければならない。
飼料および飼料成分が処理され、あるいは貯蔵されるエリアは、クリーンに維持し、害虫が入らないように囲まれていなくてはならない。餌はパレット、ラックあるいはカートに乗せ床から離して貯蔵しなければならない。未使用で開封の飼料袋は汚染を減らし病原体の伝播を防ぐために害虫の入らないコンテナに入れて貯蔵しなければならない。21℃以上の温度、極端な相対湿度、不衛生な条件、光、酸素および昆虫や他の害虫への暴露は餌の劣化を早める。肉、果物および野菜のように腐敗しやすいものを給与する場合には注意を払わなければならない。なぜなら、貯蔵条件は汚染源となり餌の品質変化を起こすおそれがあるからである。餌の中の汚染物は、たとえ汚染物が非常に低濃度に存在し臨床的な中毒徴候を起こさないとしても、生化学的および生理学的プロセスに劇的な影響を及ぼすおそれがある。たとえば、動物の薬物に対する反応を変化させる肝酵素の合成を誘導する汚染物がある(Ames
and others 1993; Newberne 1975)。プロトコールによっては、生物学的および非生物学的汚染物が同定され、その濃度が証明されている検定済み飼料を使用する必要があるかもしれない。
防腐剤を含有し適切に保存されている多くの天然成分の乾燥飼料は製造後約6カ月まで使用することができる。しかし、製造飼料中のビタミンCは一般的に3カ月の有効期間しかない。安定化タイプのビタミンCを使用することによって飼料の在庫可能期間を伸ばすことができる。古くなったビタミンCを含む飼料を、飼料中にビタミンCを要求する動物に給与しなければならない場合には、適切なビタミンCを補給する必要がある。冷蔵は栄養的品質を保持し、有効期限を延ばすが、餌の貯蔵期間はできるだけ短期間に短縮し、メーカーの推奨期間を考慮しなければならない。精製飼料および化学的に規定された餌は天然成分の餌よりも安定性が落ちることが多く、有効期限が通常、6カ月よりも短い(Fullerton
and others 1982);これらの飼料は4℃以下で保存しなければならない。
オートクレーブ可能な餌は、滅菌中の低下に耐えるように栄養素濃度、成分の種類および調製方法を調整する必要がある(Wostman
1975)。滅菌の日付を記録し、その餌は速やかに使用しなければならない。放射線滅菌飼料はオートクレーブ飼料の代わりになると考えられるかもしれない。
給餌器は餌が食べやすく糞尿による汚染を少なくするように設計し設置しなければならない。動物が群で飼育されている場合には、餌の競合を少なくし、すべての動物が餌にアクセスできるようにするために十分なスペースと十分な摂餌ポイントを設けなければならない。とくに、プロトコールあるいは日常的管理の一部として制限給餌が行われているときには重要である。飼料貯蔵コンテナは異なる汚染リスクを持つエリアをまたがって移動してはならず、定期的にクリーンにし消毒しなければならない。
臨床的あるいは飼育管理上の理由からカロリーおよびタンパクの摂取量を弱く制限すると、多くの動物種において寿命を延ばし、肥満、繁殖率および発癌率を減らすことが証明されている(Ames
and others 1993; Keenan and others 1994)。このような制限は、飼料中の代謝エネルギー、タンパク濃度あるいはその両方を減らすことによって、あるいは給餌量または給餌回数をコントロールすることによって可能である。カロリーに対するメカニズムの選択は動物種によって異なり、生理学的適応に影響を及ぼし、代謝反応に変化を及ぼす(Leveille
and Hanson 1966)。カロリー制限はある種のげっ歯類やウサギのようなある種の動物の長期飼育に、およびある種の臨床的および手術上の手順の一部として認められている方法である。
サル類のようなある種の動物種において、および場合によっては、栄養的にバランスのとれた餌を変えてやったり新鮮野菜などの”ご馳走”を与えてやることは適切であり、福祉を改善する。しかし、餌を変えるさいには注意が必要である。餌は栄養的にバランスがとれていなくてはならない;バランスのとれていない餌の自由選択をさせると多くの動物はバランスのとれている餌を選択しないで、高エネルギー・低蛋白の餌を選択することによって肥満になる(Moore
1987)。餌の急激な変更(離乳時に避けることは難しいが)は、消化障害と代謝障害を起こすので、最小限にしなければならない;これらの変化は雑食動物と肉食動物で起きるが、草食動物はとくに感受性が高い。
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通常、動物はその特別な要求に従って、飲料に適した汚染されていない飲水を飲むことができなければならない。水質および飲水に適していることの定義は地方によって異なる(Homberger
and others 1993)。pH、硬度、微生物汚染および化学的汚染の定期的なモニタリングは、水質が容認できることを確認するために必要かもしれない。とくに、特定の場所の水の通常成分が、得られる結果に影響する可能性をもつ試験に用いる場合には必要である。プロトコールが非常に純粋な水を求めているときには汚染を少なくするあるいは皆無にするために水を処理あるいは精製することができる。水処理法の選択は、多くの形態の処理法が生理学的変化、ミクロフローラの変化あるいは実験結果に対する影響を起こすので、慎重に検討しなければならない(Fidler
1977; Hall and others 1980; Hermann and others 1982; Homberger and
others 1993)。たとえば水道設備の塩素処理はある動物種には有益であるが他の動物種(水生動物のような)には有毒である。
給水管や自動給水装置のような給水装置は毎日チェックし、メンテナンス、清潔、および働きが適切であることを確認しなければならない。動物を自動給水装置を使えるように訓練しなければならないことがある。微生物の交叉汚染のおそれがあるので、給水ビンは再充填するよりも交換したほうがよい;しかし、給水ビンを再充填するならば、それぞれのビンをもとのケージに戻すように注意しなければならない。屋外施設に収容している動物は、給水装置で供給される水に加えて、小川や大雨のあとの水たまりの水も飲める必要があるかもしれない。このような附属の水源はハザードを構成しないように注意を払わなければならないが、その利用をルーチンに防ぐ必要はない。
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動物の床敷は、実験データおよび動物の福祉に影響する制御可能な環境因子である。獣医師または施設管理者は、研究者との相談にさいし、最も適した床敷材料を選ばなければならない。あらゆる管理条件および実験条件下における特定の動物種にとって理想的な床敷はなく、すべての動物種にとっても理想的な床敷はない(たとえば、ある動物種には穴を掘れる床敷が勧められる)。床敷評価の望ましい性質と手段を書いている人がいる(Gibson
and others 1987; Jones 1977; Kraft 1980; Thigpen and others 1989;
Weichbrod and others 1986)。軟木床敷が使われてきたが、無処理の軟木鉋屑およびチップを使うと、動物の代謝に影響を及ぼすので、プロトコールによっては禁忌のことがある(Vesell
1967; Vessell and others 1973, 1976)。杉材の床敷は、肝ミクロソーム酵素と細胞毒性を誘導する芳香族炭化水素を放出し(Torronen
and others 1989; Weichbrod and others 1986, 1988)、そして、癌の発生率を高めることが報告されている(Jacobs
and Dieter 1978; Vlahakis 1977)ので推奨できない。床敷材料を使用する前に、熱処理を行うことによって、芳香族炭化水素の濃度を減らし、この問題を防ぐかもしれない。床敷製品を購入するときには、供給業者が用いる製造方法、モニタリング、および貯蔵方法を考慮しなければならない。
床敷は、品質を維持し汚染を最小限にするようにパレット、ラックあるいはカートに載せて床から離して輸送し貯蔵しなければならない。、オートクレーブ中に、床敷は湿気を吸い、その結果として吸水性を失い微生物の発育を助ける。それゆえに、適切な乾燥時間と貯蔵条件を用いなければならない。
床敷はケージの交換と交換の間に動物を乾燥した状態に維持できるように十分な量を用いなければならない。そして、小動物の場合には、床敷を給水管に接触しないように注意しなければならない。接触するとケージの中へ水漏れを起こすおそれがあるからである。
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衛生化、すなわち健康を導く条件の維持、には、床敷交換(適切な)、クリーニング、および消毒がある。クリーニングは過剰な汚れやゴミを取り除き、消毒は容認できない濃度の微生物を減らすあるいは除去することである。
クリーニングと消毒の頻度と程度は、動物の正常な行動特性と生理学的特性と一致して、動物にヘルシーな環境を提供するのに何が必要かによって決まる。衛生の方法と頻度は、以下のような多くの要因によって変化する;エンクロージャーのタイプ、物理的特性および大きさ;動物のタイプ、数、大きさ、齢および繁殖ステージ;床敷材料の使用とタイプ;温度と相対湿度;サ衛生を必要とする材料の性質;動物の正常な生理学的特性と行動特性;およびエンクロージャー表面が汚れる早さ。収容システムあるいは実験プロとコールによっては、無菌的取り扱いや床敷交換頻度の変更など特殊な飼育管理技術が必要となる。
動物臭をマスクするような物質は動物収容施設では使用してはならない。それはよ衛生作業の代わりにはならず、あるいは適切な換気の供給の代わりにならない。また、基本的な生理学的プロセスおよび代謝プロセスに変化を及ぼすような揮発性化合物に動物を暴露する。
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汚れた床敷は動物をクリーンで乾燥した状態に保つのに必要な頻度で除去し新鮮な材料と交換しなければならない。その頻度は、実験者との相談に基づく動物管理職員の専門的判断の問題であり、一次エンクロージャー内にいる動物の数と大きさ、そのエンクロージャーの大きさ、糞尿の排泄、床敷の外観と湿り具合、ならびに糞尿で汚れていないケージエリアに動物が移動するのを制限するような手術あるいは衰弱などの実験条件、などの要因によって決まる。床敷交換の絶対的最少頻度はないが、典型的に毎日から毎週までの幅がある。分娩前あるいは分娩後のある期間、フェロモンが繁殖を成功させるのに必要な時、あるいは研究目的が床敷交換を許さないとき、のように、場合によっては頻繁な床敷交換が禁忌のこともある。
一次エンクロージャーのクリーニングと消毒
ペンあるいは囲い場では、クリーンな表面を維持するために水による頻繁なフラッシングおよび頻繁な洗剤または消毒薬の使用が通常は適切である。動物の排泄物をフラッシングで除去しなければならない場合には、少なくとも一日一回行う必要がある。このようなフラッシングの間は動物を濡らさないようにしなければならない。ペンあるいは囲い場のクリーニングのタイミングは、動物の行動プロセスおよび生理学的プロセスを考慮しなければならない;たとえば、餌を給与した動物の胃・大腸反射によって食後間もなく排糞が行われる。
ケージ、ケージラックおよび給餌器や給水装置のような付属器具の衛生化の頻度は、接触床敷あるいは非接触床敷を定期的に交換しているかどうか、懸垂式受け皿を定期的にフラッシングしているか、金網底あるいは穴あき底のケージを使用しているか、など用いるケージと飼育管理方式のタイプによってある程度決まってくる。一般に、エンクロージャー、およびトップのような付属品は、少なくとも2週間に1回は衛生化しなければならない。通常、平底ケージ、給水ビン、および給水ノズルは少なくとも週1回の衛生化が必要である。あるタイプのケージおよびラックは、クリーニングまたは消毒の回数が少なくてよい;たとえば、動物の収容密度が低くて頻繁にケージ交換が行われている大型のケージ、頻繁にケージ交換が行われノトバイオート条件で動物を収容しているケージ、個別換気されているケージ、および特殊な状況のために用いられるケージ。マイクロアイソレーター収容あるいは収容密度の高いエンクロージャーのような特殊な状況では、衛生化の頻度を増やす必要があるかもしれない。
ウサギおよびモルモットやハムスターのようなある種のげっ歯類は、タンパクとミネラルの濃度が高い尿を排泄する。これらの動物の尿中のミネラルと有機化合物はしばしばケージ表面に付着し、洗浄前に酸性液で処理する必要がある。
一次エンクロージャーは化学品、熱湯、あるいはこの併用で消毒することができる。洗浄時間と条件は栄養体の一般細菌および衛生化プログラムでコントロールできると思われる他の微生物を殺すのに十分でなければならない。熱湯だけを用いるときは、消毒は、温度と一定温度(累積熱因子)が対象物表面に当てられる時間の長さとの相乗効果である。同じ累積熱因子を、微生物を非常に高い温度に短時間暴露するか、あるいは低い温度に長時間暴露することによって得られる(Wardrip
and others 1994)。有効な消毒は61.7-82.2℃での洗浄とすすぎで得られる。すすぎ水に対する従来の82.2℃という温度は、タンク内の水あるいはスプレーヤー・マニフォールド中の水に関するものである。洗剤と化学的消毒薬は熱湯の有効性を高めるが、器具を再利用する前に十分にすすがなければならない。
ケージおよび器具を湯と洗剤または消毒薬で手洗いすることは有効であるが、細かいことに注意が必要である。表面に化学物質が残らないようにすすぐこと、および職員が作業中に用いる湯または化学薬品に暴露することから保護する適切な装備をすることがとくに重要である。
給水ビン、給水管、ストッパー、給餌器およびその他の器具の小さな部品は微生物を殺滅するために洗剤、湯、そして、必要なら化学薬品で洗浄しなければならない。
自動給水装置が用いられる場合には、給水器具の中に微生物やゴミが貯まらないようにする何らかのメカニズムが必要である。そのメカニズムは大量の水で定期的にフラッシングするか、あるいは適切な化学薬品を用いて完全にすすぐことなどである。適切にメンテナンスされたフィルタ=、紫外線、あるいは他の循環水を殺菌する装置を用いる一定循環ループも有効である。
一般に行われているクリーニングおよび消毒の方法は、多くの動物用器具に適切である。しかし、病原微生物が存在する場合、あるいは非常に特定された微生物フローラを持っている、あるいは免疫不全機構を持つ動物が維持されている場合には、洗浄および消毒のあとでケージおよび付属装置を滅菌することが必要かもしれない。滅菌はその安全性と有効性を確保するために定期的に更正しモニターしなければならない。
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二次エンクロージャーのクリーニングと消毒
動物室および付帯エリア(貯蔵エリア、ケージ洗浄施設、廊下、および準備室など)は、定期的にクリーニングし、状況に応じて、そしてそのエリアの使用および汚染の性質に基づいた頻度で消毒しなければならない。
クリーニング用具は特定の場所に置き、汚染のリスクが異なるエリアの間を移動させてはならない。クリーニング用具自体を定期的にクリーニングし、腐食しにくい材料で組み立てなければならない。いたんだものは定期的に取り替えなければならない。用具は、乾燥しやすく汚染しにくいように整頓して保存しなければならない。
衛生化の有効性の評価
衛生化作業のモニタリングはクリーニングするプロセスと材料にとって適切でなければならない;それには、材料の視覚検査、水温のモニタリング、あるいは微生物学的モニタリングがある。動物臭の強さ、とくにアンモニアの強さ、は、衛生化プログラムの有効性を評価する唯一の方法として用いてはならない。ケージ─床敷交換あるいはケージ洗浄の頻度は、アンモニア濃度、ケージの外観、床敷の状態、およびケージに収容されている動物の数と大きさなどの要因に基づかなければならない。
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