Jack R. Hessler、獣医師、修士
The History of Environmental Improvements in Laboratory
Animal Science:
Caging Systems, Equipment, and Facility Design
50 Years of Laboratory Science, 1950-2000, AALAS
序
実験動物学は実験動物の環境における変数を制御しようとしている。研究の変数を制御することは50年以前からの関心事であったが、動物の環境が重要な変数であり、“環境”には何が含まるかという認識はそれ以来、長い道のりを歩んできて、現在、高質なバイオメディカル究にとって必須であると考えられるレベルの制御にまで達した。このような革新に対する駆動因子はサイエンスであり、そして動物福祉に対する関心であった。科学上の疑問が洗練化されてくるにつれて、実験動物学は必然的に実験動物とその環境の品質を改善するようになってきた。1979年のCharles
River International Symposiumはこのトピック、すなわち“実験動物とその環境を定義する:パラメータをセットする”に大きく貢献した。図1は実験動物の環境を構成する多くの要因を示している。ケージシステム、器具器材、施設設計および建物の材質は環境要因の一部に過ぎないが、それらは確かに動物のマクロ環境(たとえば室内環境)およびミクロ環境(たとえばケージ内環境)を構成する重要な要因である。この章は、動物の福祉と研究のインテグリティを高めるために必要な実験動物の環境を改善する努力を続けるために用いられる考えと戦略を展望するものである。
Animal Care Panel(後の実験動物学会AALAS)が1950年に設立される少し前およびその頃の実験動物施設の状態の記述を、アメリカ実験動物学会第30回年次総会で行われたシンポジウムの一部として1979年AALAS全国大会に発表された論文から取った以下の引用にまとめた。
Dr. Nathan R. Brewer。“私が実験動物とかかわりはじめたのは1920年代半ばであった。私は当時ミシガン州立大学の獣医学生であった。モルモットが広く使われていた。モルモットは使われなくなった厩舎あるいは単に木の板で作られた手作りの小屋の床で飼われていた。ガラスのジャーが理想的だと考えられていた。ガラスのジャーは比較的、清潔に保ちやすく、動物はその中で比較的、快適であった。しかし、割れやすくて職員にとっては危険であった”
Dr. Henry L. Fosterは実験用げっ歯類の商業的生産の話題について述べている。以下のコメントは1940年代までの期間のことである。
“初期の施設の大多数に頻繁に見られた共通項は木のそしてときにはコンクリートの床のある木製構造、換気用の網付きの窓とドア、そして動物を収容するための木製のケージとラックであった。今日我々が知っているような冷却装置による冷房は一般に見ることができず、取り込み空気の濾過、あるいは動物室内における加湿あるいは除湿は見られなかった”
Dr. Charles W. McPhersonはNIH(国立衛生研究所)における実験動物学の起源の話題にいて述べている。以下の引用はNIHの施設についてなされたものである。この施設は1954年に完成し、現代の実験動物施設の到来を特徴づけるものと考えなければならない。
“設計上の重大な特徴には、クリーンコリドールとダーティコリドールのコンセプト、室内、屋外イヌ走り、動物の無菌手術のための近代的な施設、および再循環のない時間あたり10-12回換気の年間を通じた空調などがある。”
AALASの創立14年後に、動物実験に関して初めて広く受け入れられたガイドラインが、Animal Care
Panel(現在のAALAS)の動物施設基準委員会によって広められ、Institute of Laboratory Animal
Resources (ILAR), National Academy of Sciences, National Research
Councilによって採用された後に、U.S. Department of Health, Education, and Welfare's
Public Health Serviceによって出版された。それは1963年のことであり、そのガイドラインはGuide for
Laboratory Animal Facilities and Careと呼ばれた。これは1965年と1968年にこのタイトルで改訂された。1972年における次の改訂以降は、その名前はGuide
For the Care and Use of Laboratory Animalsに変更された。この章では、いろいろな版のGuideを'63
Guide, '72 Guide, '78 Guide, '85 Guide,および'96 Guideとして引用される。各版はこの章で扱われるすべての問題について述べている。
ケージシステムの戦略
動物の快適性と適切な衛生を考えることがケージのデザインと組立材質における駆動要因であった。これが確かに、the
Guideの最初の版と最後の版の間の33年を通じて同じであった。1963年Guideはケージ・システムあるいは収容システムについて以下のように述べている。“システムは第1に動物の肉体的快適性を考慮して設計されなければならない。”
“システムは効果的な衛生メンテナンスとテクニカルサービスをしやすくするように設計しなければならない。”
1996年Guideは“一次エンクロージャーは動物のニーズと、衛生的にできることのバランスを保てる材料で組み立てられなければならない。一次エンクロージャーは、その表面が突き出し部や、角、隅ができるだけ少なく、なめらかで耐水性でなければならず、汚れ、ごみ、湿気がたまらず、十分な清掃や消毒が可能なように表面が覆われていなければならない。”と述べている。'96
Guide'は'63 Guide'よりも言葉数が多いが、メッセージの意図するところは同じである。
The
Guideのすべての改訂は動物のマクロ環境とミクロ環境の両方に関係しているが、 '96 Guide'が書かれるときまでに、動物の物理的環境に対する強調は、マクロ環境からミクロ環境にシフトされてきた。ケージデザインと材質の進歩に関する展望はこの点に焦点を置く。
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材質
最初は、木材が動物のケージ、とくにげっ歯類のケージとって一般的な素材であった。Roscoe B. Jackson
Memorial Laboratory (後のThe Jackson Laboratory)のJohn Bittnerは、彼らが使っている二連式マウスケージを記述して、マウスボックスは木で出来ており、寸法は30.5
cm x 30.5 cm x 15.2 cmであった。底は6 mm ベニヤ板で被われていた。ボックスの前面、後面および側面は13
mm厚の木の板でできており、中央の仕切は19 mm厚であった。この厚いセンター仕切によって、オーバラップしているカバーに余裕ができ、マウスがかじりたがるのはこの板からなのでボックスの寿命が延びる。ボックスは塗料を塗ったり、乾燥剤を含むテレピン油と亜麻仁油の当量混合液に浸漬することができる。木のボックスはメタルケージやワイヤケージよりもいくつかの利点がある。最も重要なことは、マウスはメタルボックスの中にいるよりも温かく、すきま風に当たらないということである。また、光がボックスを通過しにくいので子育てには自然な住環境となる。(図2および3
省略)
“木は高価ではないが、最初に亜麻仁油やニスでシールしても、木製のケージはすぐに耐水性でなくなる点まで劣化し、適切な消毒が不可能になり、いつも使っているケージは乾燥することがないという事実によってさらに事態は悪化する。木の欠点を考慮に入れたとしても、1996年ガイドは木をある条件下では認められる素材として認識している。”木のように耐久性の低い素材もある状況(ラン、ペン、および野外囲い柵のような)ではより適切な環境が得られ、とまり木、昇り降り構造、休息エリア、および一次エンクロージャーに対する周辺フェンスを作るのに使用することができる。木製品は損傷したり消毒が困難になるので定期的に交換する必要がある。“
徐々に、木はガラス、プラスチックあるいはメタルのようなより耐久性のある素材にとって代わられた。最初は、亜鉛メッキスチールが一般的に選ばれるメタルであった。これは木よりも長持ちしたが、化学薬品や熱湯で頻繁に消毒すると、亜鉛メッキコーティングがすぐに劣化してサビが生じる。サビは消毒効果を妨げると考えられる。さらに、亜鉛メッキコーティングは亜鉛および他の重金属を遊離する傾向があり、これらは動物の環境に容認できない変数を付加することになる。亜鉛メッキしたメタルは、イヌ、ブタ、および小型反芻動物を収容するためのペン仕切のような応用に今でも使用されているが、大部分は、ステンレススチール、主としてタイプ304にとって代わられており、これらの素材は長期的に見れば非常に費用効果の高い素材であることがわかっており、最近では最も広く使用されている素材である。1970年代の中期から後期にかけて、テキサスの2つのケージメーカが、アルミニウム製のケージとラックを製造することによって業界に有意の襲撃を行った。アルミニウムはステンレススチールよりも軽くて安く、耐久性はほとんど同じであるという利点を持っており、これは繰り返し消毒薬に暴露すると変色して酸化するというアルミニウムの欠点よりも重要であった。アルミニウムは今でもときどき使用されているが、大部分は、1980年代におけるエネルギー価格の高騰によってアルミニウムの価格がステンレススチールの価格とほぼ同じになったときに、論外となってしまった。1950年代の後半および1970年代の初めにかけて、緑色のファイバーグラスケージが広く使用された(図4)。しかし、これは術後集中管理ユニットのような特別な場合以外は、より一層耐久性のあるステンレススチールに徐々に道をゆずっていった。術後集中管理ユニットにおけるファイバーグラスは現在でも一般的に使用されている。
げっ歯類、とくにマウス用の木製ケージは最も長く使われたが、ついにステンレススチールケージとプラスチックケージにとって代わられた。穴の開いた金属製リッドのついた大きなガラスジャーはげっ歯類ケージとして一般的に使用された。この章の初めに引用したDr.
Nathan Brewerのコメントによれば、ガラス製ケージは1920年代中頃に広く使用された。NIHにおける動物実験の当初においては、ガラス製ケージはげっ歯類に用いられた主要なケージであった。ステンレススチールはおそらく1950年代から1960年代にかけてマウス用ケージに用いられた最も一般的な素材であったが、成形プラスチックケージがこの期間中に発売になった。プラスチックケージの最初の大規模な市販はThoren
Caging System Inc.による1953年であった(図5)。プラスチックケージはOak Ridge National
Laboratoryにおける大規模なマウス遺伝プログラムで使用されていた二連式木製ケージにとって代わった。
1957年に、同じ二連式プラスチックケージがThe Jackson Laboratoryにおける二連式木製ケージにとって代わって使われた。なぜ二連式ケージか?まず、木製ケージが使われたとき、単に仕切りパーティションを加えるだけで1つのコストで基本的に2つのケージを作ることができた。第2に、離乳した同腹仔を一緒に維持し、性別に分けるときには記録が簡単になる。Maryland
Plastics, Inc.は1959-1960頃にげっ歯類用ケージを大規模に生産しはじめた二番目の会社である。1960年代から1970年代にかけて徐々に、成形プラスチックケージがステンレススチールケージにとって代わった。すり減ることがないので、ステンレスケージはおそらく今でも使用されている;しかし、動物の観察がしづらいという事実は重大な欠点であると考えられる。成形プラスチックケージはステンレススチール・ケージほど耐久性ではないが、軽くて、ゆがまず、最も重要なことは、熱伝導係数が低く、透明であるので、動物の安寧を高めるということである。
1953年にThoren Caging Systems, Inc.によって製造された成形プラスチックケージはポリスチレンで作られており、これは透明であったが衝撃に弱くオートクレーブすることができなかった。ポリプロピレンがオートクレーブできるからという理由で1960年ごろに発売されたが、あいにく、それは不透明であった。1962年にポリカーボネート(Lexanィ
GE & Macrolonィ Bayer)が市販された。これは透明であり、耐久性があって衝撃に強く、82℃の洗浄水にもよく耐える。120℃のオートクレーブにもよく耐えるが、オートクレーブの反復はケージの有用寿命を有意に減少させる。その結果、ポリカーボネートは不透明になり、ひびが入ったり、割れ目ができたりして、一般的に劣化していく。このため、高温でも透明な非晶質熱可塑剤が探し求められてきた。最近の例としては1987年に発売されたpolyphtalate
carbonate(APECィ GE-一般にhigh-temperature polycarbonateとして知られている);1988年に発売されたpolyetherimide
(ULTEMィ GE);1994年に発売されたpolysulfone (Udelィ Amoco);および1995年に発売されたpolyphenylsulfone
(Radelィ Amoco)がある。
エキスパンデッドメタルおよびワイヤはイヌ、ブタ、ヒツジおよびヤギを収容するための床材として長く使われてきた。1070年代の終わりと1980年早々から、ポリ塩化ビニールでコーティングしたエキスパンデッドメタルおよび成形プラスチックメッシュが裸のスチールフロアにとって代わりはじめた。1998年1月に、アメリカ農務省(USDA)はイヌおよびネコの一次エンクロージャーに用いられるワイヤ・フローリングに関する動物福祉法の基準を改定した。ワイヤの床は、ワイヤが直径3
mm以下ならばプラスチックあるいはファイバーグラスのような素材でコーティングされている必要がある。
衛生および耐久性の性質と温かさ、快適さ、および防音性質とを兼ね備えた他のケージ組立材の使用がステンレススチールの代わりに最近使われはじめている。たとえば、熱硬化性および熱可塑性のポリマー・マトリックス素材を強化する高剛性/強力ファイバー、ファイバーグラス強化パネル、ポリ塩化ビニール発泡ボード、およびアクリルからなる複合材がある。これらの新しい素材は、新しいケージデザインと相まって熱中性で防音作用のある表面をもち換気と観察がしやすいケージを生み出す。このようなケージは動物のミクロ環境を改善し、動物に対するストレスを減少させることによって、研究データの質を高める見込みがある。
動物の収容スペース基準
動物の体重、体型および自然の行動を考慮して個々の動物種に与えなければならないケージスペースの最少量はどれだけか?大部分は、最小収容スペース条件を決定することは判断の問題である。この理由のため、the
Guideのいろいろな版に基準を書く重要な責任を持たされているこの分野の指導者が直面してきたより困難で議論の多い問題の1つであったし、今後もそうである。
究極的には、Guideのスペース基準は動物福祉法およびその後の改訂を実行するための規制基準にインパクトを与えた。
動物種に特異的な収容
実験動物の問題にさっと目を通しながら広告を見てみることのほうが、この章でまとめるよりも、動物のケージと器具器材の歴史をよく見ることができる。スペースはすべての一般的実験動物の収容の歴史をカバーすることはできず、バイオメディカルに使われてきたわずかな動物種についてのみカバーしているだけである。以下は動物の収容における有意でそして/あるいは議論のある変化の例である。
直接的床敷ケージシステムと間接的床敷ケージシステムの両方が50年以上の長きにわたり使用されてきた。直接的床敷システムは平底の“弁当箱型”ケージと一緒に用いられ、間接的床敷システムは糞尿受け皿の上に吊り下げられたワイヤ底ケージと一緒に用いられる(図6
省略)。げっ歯類はたまに、床敷の入っていないソリッド底ケージで飼われることがある。50年前には、マウスはほとんどが直接床敷の弁当箱型ケージで飼われており、ラットはほとんどが懸垂式ワイヤ底ケージで飼われていたが、両方とも例外はあった。1つの例外は、合衆国において、特に医薬品開発のための毒性試験においてラットと同様にマウスでもワイヤ底ケージが広く使用されてきたことである。しかし、the
National Toxicology Programは1980年代初めにおけるその発端からソリッド底床敷ケージを使ってきており、the
National Center for Toxicology Researchは1970年代初めから使用してきている。徐々に、動物福祉の観点から、すべてのげっ歯類について、ワイヤ底ケージからソリッド底ケージへシフトしてきたし、引き続きシフトしている。この傾向は'96
Guideによって支持された。The Guideは以下のように述べている。“げっ歯類は金網床で飼育されることが多いが、これによって尿や糞が収集トレイの上に落ちてケージの衛生状態がよくなる。しかし、床敷の入った平底ケージのほうがげっ歯類が好むというデータもある(Fullerton
and Gilliatt 1967; Grover-Johnson and Spencer 1981; Ortman and others
1983)。床敷の入った平底ケージは、それゆえに、げっ歯類に推奨される。”'96 Guideに引用されている参考文献はワイヤ底ケージに収容されたモルモットとラットの後肢の足底神経の障害を報告している。数多くの比較的最近の文献は、特に休息時に、ラットおよびマウスがワイヤ底ケージよりも床敷ケージのほうを好むことを報告している。
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げっ歯類を外来性の異物からフリーに収容するための戦略は、過去50年における実験動物学の重要でダイナミックな活動のうちの1つであった。このような戦略はLisbeth
Kraftが1958年に、フィルター付きケージにマウスを収容するとマウス流行性下痢(EDIM)の伝播が防止されるということを証明して以来、過去30年間のげっ歯類収容シーンの主力となってきた。確かに、これは実験動物学における重大なマイルストンであった。面白いことに、実験環境においてげっ歯類を外来性病原体からフリーに維持するための努力の頼みの綱はいまもなおフィルタートップ・ケージ(マイクロアイソレーション・ケージ)である。ケージのフィルターカバーが重ね合わせフランジが付いたケージのトップに乗っているが、ポジティブなシールがなく、細菌培養ペトリ皿のふたがペトリ皿にはまっているのに似ているという点で、細菌学のペトリ皿になぞらえられてきた単純なコンセプトであった。
ケージレベルの“バリア”の有効性を初めて報告したKraftによって使用された最初のフィルター付きケージは亜鉛メッキしたソリッド底とフタのついた亜鉛メッキワイヤ製のシリンダーからできていた(図7)。ワイヤは、受動的エアフィルターとして働くファイバーグラス絶縁材のシートで完全に被われていた。後のモデルは同様のファイバーグラス・フィルターを用いて、弁当箱型ケージのトップエッジの上に乗ってすっきりと重ね合わさる大きさの逆弁当箱の形のワイヤフレームにしっかり取り付けられた。これらの初期のフィルター・ケージ・カバーから、フィルター・トップは細いワイヤメッシュ、不織合成繊維の比較的薄いシートからできているフィルター・ボンネットでワイヤ・フレームから離れているものとワイヤフレームを被っているもの、堅く成形したスパンボンディッドポリエステル・ファイバー・フィルター(図8)、トップにフィルターペーパ挿入のある成形プラスチックトップで1970年代にRobert
Sedlachekによって初めて開発され1980年代初めにコマーシャルに生産されはじめたものまで、いくつかのタイプを通じて発展してきた(図9)。Micro-Isolator(tm)ケージシステムの最初の広告はScienceの1982年9月10日号に出た。げっ歯類を収容するためのケージレベルのバリアシステムにとって絶対に必要な部分は移動式作業ベンチである。これはHEPAフィルターを通した高ターンオーバー空気によって被われた環境内でケージ交換をしたり、いろいろな処置を行うために開発されたものである。このケージレベルのバリアシステムでは、ケージはHEPAフィルター濾過された空気団で置換された���気の作業装置内だけで開けられる(図10)。
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ケージレベルのバリアが開発され普及していったと同時に、“クリーンな”げっ歯類を維持するための別の戦略が進展してきた。これらの中には、フィルターペーパで覆われたワイヤあるいは穴のあるシートメタルの棚からつり下げられたソリッド底床敷ケージ(図11);HEPAフィルター濾過空気をラックの後ろから水平に各棚を横切って室内に送ることによって各棚を、そしておそらく各ケージを“クリーンな”空気で隔離するマスエア置換ケージラック(図12);入れるラックによって大きさの異なるポータブルのHEPAフィルター濾過マスエア置換“クリーン・ルーム”および“クリーンテント”(図13);および各囲われた棚に個別に換気を行う換気式ラック(図14)がある。ケージ間の微生物の伝播を減らすことに加えて、これらのシステムによって、動物室の空気に動物のアレルゲンを負荷するのを減らすという利点が加わる。これらのシステムは今でも使われているが、マイクロアイソレーションケージシステムが現場を支配するようになってしまった。
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げっ歯類ケージトップフィルターは有効なケージレベルバリアを作り出すことが当初からよく報告されていた。しかし、このようなマイクロアイソレーションケージは動物のミクロ環境を悪化させる。アンモニア、湿度レベルおよび温度が、開放式弁当箱型床敷ケージでも、室内レベル以上に増加するが、ケージにフィルタートップを装着するととその増加はさらに有意に大きくなり、二酸化炭素のレベルも増加する。マスエア置換ラック上におかれた静圧マイクロアイソレーション・ケージにおいて、ミクロ環境は標準ラック上におかれた同じアイソレーションケージに比べて改善された。ケージ環境に見られるアンモニアレベルはラットの気管表皮に有意の影響を及ぼし、Mycoplasma
pulmonisによって起きるラットの鼻炎、中耳炎、気管炎および肺炎の重症度を増加させることが報告されている。別の試験では、げっ歯類のケージで一般的に見られるよりも高い濃度のアンモニアでも血液pH,
pCO2, pO2,血液アンモニア濃度、肝ミクロソーム酵素活性あるいは肺および気管の組織像には有意の変化を起こさなかった。
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実験動物学におけるもう1つの大きなマイルストーンは濾過された空気をケージ内に吹き込む陽圧の個別換気ケージシステムの開発であった。個別換気ケージ戦略は1960年代半ばにThe
Jackson LaboratoryのEdwin P. Lesによって開発された(図15)。当時、The Jackson Laboratoryは哺乳マウスにおける下痢に重大な問題を経験していた。彼らはケージの上にフィルタートップの使用を始めたが、フィルター付きのケージが動物のミクロ環境にどのような影響を及ぼすかに非常に関心を持った。目的はケージ間の病気の伝播を制御することであったが、同時に動物のミクロ環境を改善することでもあった。1970年代半ばまでに、目的は動物の収容密度を増やすことによってスペースを節約することに拡大された(図16)。Lesは彼の目的を達成するためにいくつかのデザインを検討し、空気をケージに送り最後のケージから出てくる空気を捕集する空気プレナムのような中空の棚のアイデアに到達した。1979年にLesはThoren
Caging SystemsのWilliam Thomasと力を合わせて、各ラックにファン/フィルター・モジュールから供給されるHEPAフィルター濾過空気で各ケージを個別に換気することによってケージレベルの隔離を行う加圧式換気ケージシステムを開発するに至った。1980年代の終わりに始まり、他の業者は加圧式換気ケージシステムの商業的生産の戦略を開発した(図17)。1980年代の終わりと1990年代の始めに、換気式ケージシステムは広く受け入れられ始めた。換気式ケージシステムによって効果的なケージレベルのバリアが得られると同時に、湿度、CO2、およびアンモニア濃度も有意に改善されることが報告されてきた。実際に、ケージ交換の間の長い間にわたって受容できるミクロ環境を維持できることが証明された換気マイクロアイソレーションケージシステムは週に、およびときにはもっと長い期間に1回ケージを交換するための標準的な手法となった。この結果、静圧アイソレータケージに必要とされる最低週�����回の交換と比べるとき、動物の管理コストがかなり減少した。換気ケージに関係する換気の配置に関しては多くのオプションがある。給気だけのもの、ケージ内気圧が室(バリア)に対してやや陽圧になっている給気と排気のもの、そしてケージ内気圧が室に対してやや陰圧になっている給気と排気のものがある。注:各ケージ内の気圧が実際に室に対して陰圧になっていることを保証することは極めて困難であるので、おそらく一般的な換気ケージは高レベルの病原体あるいは発癌性物質の封じ込めには最良の選択ではないだろう。室の換気システムに関するオプションには、ケージの給気と排気のための独立したファン/フィルター・ユニット(ラックのトップあるいは壁に取り付け)、あるいは室給気も使用することができるが、これはあまり一般的でない。Lipmanはいろいろな換気オプションの総説を発表している。
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長年にわたって変化してきたウサギの収容に関する重要関心事はコクシジウム症と飛節びらんであった。コクシジウム症を適切にコントロールするためには糞がウサギの届かないところに落ちるケージ底にウサギを収容する必要があった。最初はいろいろな太さのワイヤとメッシュサイズが使われたが、ワイヤ床に長期間収容すると、飛節びらんが発生する。孔が菱形のエキスパンデッドメタルのほうがワイヤよりも優れていることがわかっているが、飛節びらんの問題は解決されていなかった。平行状あるいは格子状いずれかのステンレス棒のいろいろな組み合わせが試みられた。多くのもので飛節びらんが減少し、多くは今日でも使用されている。孔のある成形プラスチックケージが1980年代終わりに発売され、ウサギはもとよりモルモットにとっても非常に満足すべきケージであることがわかった(図18)。飛節びらんはもはや重大な問題ではない。これは脚の足底表面に柔毛の多いウサギを収容するのに適しているためかどうかは明かでないが、確かに優れた収容方式である。今やコクシジウム症は研究用に生産されるウサギでは重要な問題でなくなり、環境エンリッチメントを与えることに関する関心が高まっているので、かんなくずのような床敷材の入ったフロアペンにウサギを群飼育するという新しい関心が生まれた。
1970年代の初めから中頃にかけて始まったオープン底懸垂式ケージにげっ歯類やウサギを飼育するという革新的なアイデアはカスケード式水洗ラックであった。このタイプのラックには各ケージ列の下に一枚の汚物受け皿が一方の端から他端にかけて固定されている(一般に2ないし3ケージ、3列)。受け皿はラックの一端から他端にかけて傾斜しており、各端ではラックの下に向けて瀧になるように水を棚から棚へ方向転換させるバッフル状になっている。大量の水が間欠的にラックのトップ列の上の傾斜水洗受け皿に供給され、瀧状の水がケージ下の各洗浄受け皿を流れ始め、最後には洗浄汚水が床のドレーンに流れ込む。供給水は電気タイマーで電磁弁を開くことによってコントロールされる加圧水ラインか、あるいは一定の水位に達すると傾斜して水が流れ出すタンクから得られる。このシステムの利点は、床敷の購入、取扱および廃棄のコストがなくなる結果として、かなりのコスト低減が得られることである。欠点は床のドレーンの位置を戦略的に決める必要があり、特殊な配管を必要とすることである。水が棚を横切って均一に流れるように棚を水平にすることが難しい;水が棚から飛沫として溢れたり漏れたりする結果として床がいつも濡れていて、室内換気が悪いと室内の相対湿度が過剰になりやすい。カスケード式ラックは今でも使われている施設があるが、一般に使用されるようにならないところをみると、多くの人々の頭の中では欠点のほうが利点を上まわっていることは明かである。
Guideの一連の改訂においてウサギに推奨されるケージサイズがしばしば変更された、'63 Guideはウサギに1体重と1ケージすなわち4
kgと0.28・であった。'72 Guideでは体重カテゴリーの>4 kgと0.37 ・が加わった。'78 Guideでは別の体重カテゴリーの>6
kgと0.46・が加わった。'85 Guideでは >6 kg の体重カテゴリーが>5.4 kgに下げられた。Guideの一連の改訂におけるこれらの変化の影響は″標準″ウサギ用ケージのサイズを0.28・から0.37
・へ、それから0.46・に増加した。
イヌを収容するための戦略はときどき大幅に変化し、一定のときでは施設ごとに変化した。長年にわたってはほとんど変化していない。広く議論されてきた話題にもかかわらず、イヌを収容するための最善策としての明確なコンセンサスは現れていない。以下は代替オプションの例であり、その多くは50年前に使われていたものであり、多くは今日も使用されている。すなわち固定式二段ケージ
対 移動式二段ケージ;固定式ペン 対 移動式ペン;室内ペン 対 屋外ペン 対 室内/屋外ペン。
移動式ケージあるいは移動式ペンの利点は、最低2週に一度衛生化のためにケージ/ラックワシャーへ移動しやすいことである。固定式ケージとフロアペンの利点は最低2週に一度衛生化のためにケージ/ラックワシャーへ持っていく必要のないことである。それは冗談に響くかもしれないが、両方とも観点の違いによって実際に利点とみなすことができる。それは、ケージは最低2週ごとに1回、できれば82℃のケージ/ラックワシャーで、消毒しなければならないと明記している規制基準およびGuideの推奨に由来している。もちろん、ケージが固定されていれば、その場で消毒することができ、それによって、高価なケージ洗浄装置を購入する必要や、ケージをケージワッシャーのところへ運んだり持ち帰る労力がなくなる。再び、観点次第では、1980年代の終わりと1990年代の初めに普及した移動式ペンはフロアペンの利点と機械的ケージワッシャーで便利に消毒できることとを組み合わせたものである(図20)。
ウサギ用ケージと同様に、イヌを収容するための一次エンクロージャーのフローリングは最も変化したものであり現在もどれが最良かについて明らかなコンセンサスがない。イヌ用のフローリングについていくつかの基本タイプが試みられた:洗浄しやすくするためにドレーンに向かって傾斜したソリッド床を吸収性床敷材でカバーされたフラット床と比較した。ドレーンのある床、ドレーンのある受け皿、あるいは吸着床敷の入った受け皿のいずれかの上に吊り下げられた開放格子あるいは傾斜床も用いられた。重要な論争はソリッド床
対 懸垂床の使用についてであった。懸垂式の床は動物を乾燥した状態で清潔に保ちやすい傾向があるが、動物にとって快適でないと認識されている。急性および慢性両方の脚の怪我(床の開口部に挟まっておきる足の裏の怪我や趾間嚢胞)を起こすタイプもあった。懸垂床はいろいろな太さと形状のワイヤ、菱形孔のエキスパンデッドメタル、ステンレス製あるいはファイバーグラス製の棒を平行あるいは格子状にした各種組み合わせで作られてきている。1970年代の初めから、プラスチックコーティングしたエキスパンデッドメタルが、イヌのケージあるいはペンの懸垂床のための最も一般的な材料として出現したようである。材料の項で述べたように、1998年1月にUSDAは動物福祉法(AWA)基準を改訂し、ワイヤ床はワイヤが直径3
mm以下であればプラスチックあるいはファイバーグラスのような材料でコーティングされなけれならないという基準を設けた。
ケージまたはペンの床の上部に設けられたソリッド休息面は、吸息板と呼ばれることが多いが、ソリッドフローリングと懸垂穴あきフローリングの両方で一般的に用いられてきた。1998年1月まで、AWA規制は以下のように述べていた。″一次エンクロージャーの床がワイヤで作られているならば、全体として、その一次エンクロージャー内のすべての動物が乗れるだけ十分大きなソリッド休息面を与えなければならない。″コーティングしていないワイヤ床がなくなったとき、ソリッド休息面の条件はなくなったけれども、特にフロアペンとの組み合わせで、休息板がまだ使われている。AWAの施行の初期の1時点で、有効床面積を計算するときに休息板の占める面積をケージまたはペンの床面積から差し引いた。この結果として、休息板はほとんどのケージおよび多くのペンからなくなった。この処置がUSDAによって中止されたとき、休息板はペンには戻ったがケージには一般的に戻らなかった。
実験室に収容されているイヌの運動は、AWAの1985年改定によってイヌの運動が要求される前の長い間、議論の多い問題であった。1963
Guideは″動物管理の分野で最も広く議論された問題は、実験動物の収容、とくにイヌの収容における、″運動″の必要性に関するものである。″と述べている。
AWA規制はイヌは、″イヌに必要な床面積の2倍以下のケージ、ペン、あるいはランで個別に飼育されているならば、規則的に運動する機会を与えられなければならない。″と述べている。
イヌは、ペアまたは群で飼育され、個別飼育される場合に必要なスペースの少なくとも100%がエンクロージャーによって各イヌに与えられている場合には、運動させる必要がない。イヌをペアまたは群で収容することができず、最小必要面積の2倍を与えることが実際的でない場合;専属獣医師によって決められたルーチンベースで運動の機会を与えられなければならない。このような状況でAWA規制の運動条件を満足させることは多量の創造性が生まれたところである。1つのアプローチは対のケージあるいはペンの間にドアを設けて定期的に開けて両方のイヌに結合したスペースを共有させて、一定時間の間、最小必要収容スペースの2倍にアクセスできるようにさせることである。別のアプローチはイヌをイヌ室の中で自由に走らせる、あるいは室の中にフロアペンを入れてイヌをローテーションさせることである;室全体をイヌの運動に供して、ときどき室中の複数のペンの中に入れたり、雄と雌を分けるために室の中央に仕切りパネルを入れる;そして門のある廊下を用いて廊下の特定エリアにイヌを入れる。
サル類を収容する戦略は当初は2つの目的があった-1つはケージに動物を個別収容するためのものであり、1つは群飼育のためのものであった。
群収容するサル類のためには、サル類を収容する施設と同じだけ多くの戦略がある。最も典型的なペン、室内、屋外、および組み合わせは、波形番線鉄鋼フェンスがサイドとトップについたコンクリート製のフロアからできている。他のタイプの屋外群飼育施設はの大きな波形番線鉄鋼フェンス・エンクロージャーと同じく変化があり革新的であり、土床のあるの大きな波形番線鉄鋼フェンス・エンクロージャー、トウモロコシ倉庫、内側へ傾いたソリッドでスムーズな壁のある広々とした囲い柵、波形番線鉄鋼フェンスで囲まれたペン、および島全体であることもある。
サル類を個別に飼育するための基本的なケージデザインは過去50年を通じて比較的無変化のままであり、新しいデザインが導入されたのはAWAの1985年の改訂以降であった。サル類に初めて広く使用されたケージデザインは"七面鳥ケージ"と一般的に呼ばれており、その理由はHarford
Metal Products (Aberdeen, MD)によって改良された亜鉛メッキワイヤで組み立てられた七面鳥用のケージであったからである(図21)。このタイプの最初のケージは1950年代の終わりにNIH用に作られた。このケージの基本デザインはオープンメッシュの代わりにソリッド背面とソリッド側面のある点;ケージの下に固定式洗浄受け皿
対 取り外しできる受け皿;および固定壁ブラケットから懸垂されたケージあるいは移動式ラックの上のケージという点でのみ変化してきた。締め付け用背面およびとまり木がおそらく基本デザインに加えられた有意の革新であろう。AWAの1985年改定で規定されたサル類に環境エンリッチメントを与えるための条件はさらに革新に拍車をかけた。例としては、ケージの上に吊り下げられた、あるいはケージの一部として作られたエンリッチメント装置がある。一般にこのような装置には餌がある。なぜなら餌はサル類のエンリッチメントのための最善の戦略と考えられるからである。サル類のエンリッチメントのためのもう一つの戦略は可能な場合にサル類をペアまたは群で収容することである。おそらく、これは、なぜサル類用のケージでもっと一般的な革新が同一のユニット内で個別収容あるいは群収容ができる"4倍ケージ"であるかの説明となる。4倍ケージは、最初は1985年のAWAによって要求されケージサイズとサル類のエンリッチメントに関して規制が課すであろう不確かな方向に動機づけられて、1989年にNoel
Lehnerによって開発された。4倍ケージは取り外し可能な縦・横の仕切のついた4個の個別ケージコンパートメントを持っている。これは一般に、隣り合わせのコンパートメントにいる動物がお互いを見ることができなくしたり、あるいは透明なパネルを通じてお互いを見ることができるようにしたり、あるいはお互いをさわれるが指を噛まれないように保護した戦略的に離した2つのワイヤメッシュ・パネルを通じてお互いに触りあえるようにするオプションが可能である。このような特徴は動物を導入したり、動物を一緒に収容する前にその相性を判断するのに有用と考えられる。これらのケージはケージのサイズよりも垂直スペースの要求度が高い動物種を収容するのにも、それらの動物の自然な行動をさせるために、有用である。
バイオメディカル研究環境における大動物の収容は、無視されてはいないが、広くは論じらてこなかった。1966年の実験動物福祉法以来、家畜を収容するための二重基準があった。実験動物福祉法はバイオメディカル研究に用いられる家畜は農業研究に用いられる家畜と異なると認識している。農業研究に用いられる家畜のための基準は現代の農業生産方式の方向を向いている。バイオメディカル研究に用いられる家畜のための基準は他の実験動物の基準のほうを向いているが、自由な解釈が伴っている。1972
Guideは"大家畜のための施設"に章を設けた最初の版である。1988年に、農用動物科学者の協会は家畜のための基準をまとめ、Guide
for the Care and Use of Agricultural Animals in Agricultural Research
and Teaching (Ag Guide) に編集した。Ag Guideは1999年に改訂された。
プラスチック・コーティングしたエキスパンデッドメタル・フローリングの使用はバイオメディカル研究に最も一般的に使用される小さな家畜-ヒツジ、ヤギおよびブタを収容するための戦略の進展において注目に値する1つの発展である。
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